Sustainability Research 004

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Bad-Homburg / Germany

本来、日本の得意分野だったモノづくりの分野で、海外のさまざまな企業に先んじられています。

最近、サムソン電気の液晶パネルが世界中に採用されているようなことですね。
液晶パネルについて言うと、パネル製造は要素技術ですから、シャープもサムソンも設備をきちっと作れば技術差はそんなにありません。しかし美しく光らせる電気制御回路は、「エンジン」と呼ばれていますが、日本の美的センスが反映されていて、そこにこそ差があります。
シャープの亀山モデルというのは、液晶パネルの技術というわけでなく、電気制御回路の設計技術がすぐれているからこそ、パネルの品質の高さと安定性と電気回路が相まって美しい画面ができたんです。ビジネスホテルなどに置いてある液晶テレビはサムソンやLGが多いのですが、ずいぶん画質が悪い。それは見ただけでわかります。日本の電気回路技術がいかにすぐれているか、を示しています。
サムソンはソニーと提携しました。サムソンは液晶の技術は持っていても、電気回路の技術がなかった。それで日本の一流メーカーの電気回路技術が欲しかった。そしてソニーは、液晶パネルの設備をつくり生産するのは現在の経営状況から困難だった。
サムソンとの提携によって日本製の高い液晶でなく韓国の安いけれど技術的に遜色ない液晶パネルが買える。それで成立した提携ですが、これで経済産業省がものすごく怒った。「日本産業の核になっている電気回路の技術を、提携すると韓国に持っていかれるだろう」というわけです。それでソニーは今、ブラビアというソニーだけの技術による製品を作りました。
日本には、そうしたすぐれた要素技術を持っていますが、それを世界標準にしようという動きが全くない。なぜでしょうか。規制や法律が足かせです。

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Munich / Germany

福岡県にロボット開発のベンチャー企業があり、電動車いすを開発しました。(ロデム
車いすというと、一般には椅子の両脇に車輪がついている形で、乗るには向きを180°変えてから後ろ向きに乗らないといけません。障害のある方にはとても大変な動作です。しかし、その車いすは自転車に乗るように後ろからからだの向きを変えずにまっすぐに乗れます。座るところは自転車のサドルのような形ですが、ハンドルと両肘を支えることによって不安定さを解消します。360°回転できますし、動きもスムーズです。
そこで、後ろから乗る乗り方を、新しい車いすの標準としたらどうだろうかと話がでましたが、日本では、電動にすると、軽車両としてナンバーがいるとか、シニアカーにすれば速度を時速6km以下と制限しなくてはいけないとか、さまざまな規制があります。それをクリアするためには、ものすごく時間がかかる。
ところがそれをデンマークに持っていくと、「この乗り方は非常に便利だ。一度、コペンハーゲン市内で実証実験をして、それがよければデンマークの標準にしちゃいましょう」とすぐに動き出し、この夏からは20台ほどがコペンハーゲン市内を走り、そこで出てくる課題を抽出して解決し、早ければ来年にはデンマークの車いすのスタンダードにしようという計画にまで発展している。
なぜ日本で開発したのに、デンマークへ?と聞くと、「日本で標準化なんて、規制が多すぎてできませんよ」と。開発に時間と経費がかかり過ぎる、というわけです。デンマークの計画は、社会の中でいわば推奨品のようにしてそれを使い、ゆくゆくはEU圏内へ広げていこうというものです。もし実現したら、数年後、EUでは後ろからまたいで乗る電動車いすがあちこちで見られるようになるかもしれませんよ。
開発した企業としては、自分たちの先見性を世の中で生かしていける道が海外にあったということでしょう。下手をすると今後は、技術者自身が海外へ出ていく可能性も出てきますよ。