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Sustainable Ideas for Road Safety 1 埼玉県×HONDA カーナビデータで「ヒヤリ・ハット」撲滅!

埼玉県が安全な道づくりにカーナビデータを活用している。
クルマ1台1台から送られるフローティングカーデータを分析して急ブレーキ多発地点を抽出し、それぞれに現場に応じた対策を実施する。
意外なことだが、こうしたカーナビデータの活用事例は日本初。カーナビデータはどのように利用されたのだろうか。
埼玉県道路政策課でお話をうかがった。

小沢亮二さん

小沢亮二さん
埼玉県県土整備部道路政策課主査

少ない予算で早期に実施できる交通安全対策です。
危険性を予測して、事故が起きる前に対策を打つことができます。

(写真・資料提供:埼玉県)

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図1:「急ブレーキ発生箇所データ」イメージ
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図2:急ブレーキ発生箇所がわかる仕組み
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図3:地図上に反映された急ブレーキ矢印

カーナビデータから急ブレーキ多発地点を探せ。

埼玉県の取組みのきっかけは、2007年にさかのぼる。交通事故防止対策を探っていた道路政策課は、HONDA純正カーナビ(インターナビ)が急ブレーキの発生箇所の特定も可能であることを知った。HONDAは、インターナビを装着するクルマ1台1台の車両位置、時刻、走行速度などのフローティングカーデータを情報センターに集め、ユーザーにルート案内などを提供しているが、急ブレーキ発生箇所の特定も可能。他のカーナビにはない機能だった。

道路政策課が目指していたのは、低予算かつ簡易な工事によって早期の効果発現を図ること。「カーナビデータを潜在的な危険防止に活かせないか。」
そう考えた道路政策課は、HONDAへ「急ブレーキ発生箇所データ」を安全対策に活用することを提案。埼玉県とHONDAとの間で『道路交通データ提供に関する協定』が締結された。

その結果、双方が保有するデータの有効活用が行なわれることになった。HONDAは埼玉県から提供される道路開通情報や観光情報をカーナビユーザーへのサービス向上に活かし、埼玉県はHONDAが提供する「急ブレーキ発生箇所データ」を道路交通の安全性向上のための施策を講じる。急ブレーキ発生箇所の抽出には、インターナビ装着車の車両データが利用された。

HONDAから提供される「急ブレーキ発生箇所データ」は、①減速開始地点の座標 ②車両の進行方向の方位 ③減速度(急ブレーキの強さを表す) ④発生日時で構成される。(図1

インターナビからの情報は、数秒間の一定間隔で記録されている。そのため図2のように、クルマが一定速度で走っている場合は車両位置が一定間隔になるが、急ブレーキをかけると減速されるため、位置データは間隔を狭めていく。この変化からどこで急ブレーキが発生しているかがわかる仕組みだ。

急ブレーキ発生数が7割減少。

埼玉県は、HONDAから提供された急ブレーキ発生箇所データの視覚化を試みた。独自のプログラム処理によって「急ブレーキ矢印」に変換、地図上に反映した(図3)。矢印の方向はクルマの進行方向を、矢印の先端は急ブレーキの発生地点を表す。その後、地図上の50mメッシュ内で同一方向の急ブレーキが月に5回以上発生した地点を抽出し、「急ブレーキ多発箇所」とした。

「地図上に反映した急ブレーキ矢印をもとに、現場検証を行ないます。その場合、私たち道路管理者だけでなく、交通管理者の埼玉県警に協力していただいています。」

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写真A:植栽を選定後、急ブレーキ回数は月8回から月3回に減少。(和光市)
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写真B:路面表示によって注意喚起を促した。急ブレーキ回数は月9回からゼロに。(新座市)

たとえば、写真Aの地点では月8回、急ブレーキが発生していた。

「現場に行き、地図上の急ブレーキ矢印が示す方向から接近すると、樹木が見通しを悪くしていることがわかりました。」

そこで植栽を剪定、急ブレーキ発生回数は月3回に減少した。このようにして、2009年から2012年までに急ブレーキ多発地点160カ所が抽出され、各地点で現場検証が行なわれた。そして原因を把握し、その場の状況に応じた対策が打たれた。

対策が完了した時点で効果測定を行なった結果、1ヶ月間の急ブレーキ発生総数は995回から326回に。およそ7割減少した。ゼロになった地点もある。人身事故発生総数では、2011年までに対策が完了した地点145カ所では、年間190件が146件に減少した。

「道を改修するといった従来型の予算や時間のかかる施策ではなく、少ない予算で短時間に対応できるのが最大の利点です。道路状況は地点ごとに異なります。それぞれに応じた対策がきめ細かな対策が打てることもありがたいですね。」

カーナビデータの新たな活用。他地域への広がりも。

埼玉県では今後も、カーナビデータを活用していく予定だ。たとえば「時間帯によるデータの分析を行なうことができます。日中と夜間ではクルマの流れも違います。それぞれの時間帯に必要な事故防止策を打つことが可能です。」さらに、昨年から通学路の安全確保にもカーナビデータを活用している。「埼玉県内には、まだ歩道が整備されていない通学路がありますが、そのうち320kmを対象として現在、調査や安全対策を進めています。」

カーナビデータを利用した埼玉県の施策は、2010年、全国知事会が選定する「先進政策大賞」を受賞。複数の自治体から問合せや見学が相次いだ。栃木県小山市もそのひとつ。生活安心課交通対策係が、埼玉県の事例を参考に2010年4月から9月にかけてのHONDAのカーナビデータを活用し、市内15の急ブレーキ多発地点を抽出した。それをもとに2011年、各地点で安全対策を打っている。

現場ごとに課題を見出し、状況に応じた個性的な対策が打てる。埼玉県が通学路の安全対策に応用したように、それぞれの地域で新たなカーナビデータ活用のアイデアが出され、有効な安全対策として広がっていきそうだ。

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