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Sustainable Ideas for Road Safety 2 事故ゼロ社会の実現に、ビッグデータの力をいかそう! e.g.Honda

自動車安全技術は著しく進化している。
市場ではクルマそのものが事故を回避する「ぶつからないクルマ」が拡大し、その先には自動運転技術の実用化も見え始めている。
技術の深化の対局には、ヨーロッパの「ウィーン会議」のようにブレーキも存在する。
「安全を守る主役は、あくまでも人」だ。技術に頼る前に、ドライバー自身の安全意識を引き出す。そのために、カーナビ技術を核にさまざまな情報を融合させ、新たなコンテンツとしてユーザーに提供し、安全意識の向上に役立てる取組みがある。
今回は本田技研工業グローバルテレマティクス部を例に、その取組みについて考えてみたい。
(資料提供:本田技研工業株式会社)

「危険が潜んでいる場所」情報を共有して安全な街に。

仙石浩嗣さん

仙石浩嗣さん
本田技研工業
グローバルテレマティクス部
サービス研究開発室チーフ

「技術の進歩や法規制の徹底などにより事故の犠牲者は減ってきていますが、事故そのものはなくなりません。事故ゼロ社会に近づくには、予防安全技術をもっとしっかりやらないといけない。そのような考えから、今行なっているのが『SAFETY MAP』と『安全運転コーチング』です」。グローバルテレマティクス部サービス研究開発室チーフ・仙石浩嗣さんは、こう語る。
Hondaでは現在、「事故ゼロ」のモビリティ社会の実現を目指すため、予防安全に対する取組みを3つの視点から行なっている。それはヒト(安全教育)、テクノロジー(安全技術)、そしてコミュニケ―ション(安全情報)であり、「SAFETYMAP」や「安全運転コーチング」はコミュニケーションの領域にある取組みだ。カーナビ情報を活用した新しいコンテンツの提供である。

SAFETY MAP
http://safetymap.jp/

「SAFETY MAP」は、急ブレーキ多発地点と交通事故多発エリア、地域住民からの「ヒヤリ・ハット」情報が反映された交通安全ソーシャル・マップだ。クルマのユーザーからだけでなく、インターネットやスマートフォンなどの携帯端末を使って誰でも利用することができる。今年3月、埼玉県で先行して一般公開された。
急ブレーキ多発地点は、月に5回以上急ブレーキが発生した場所。Hondaの純正カーナビシステム「インターナビ」から送られてくる1台1台の走行データ「フローティングカーデータ」を集積、処理して得られた情報だ。埼玉県道路政策課は、この情報をもとに道路安全対策を講じた。

参考:カーナビデータで『ヒヤリ・ハット』撲滅!

SAFETY MAP

「SAFETY MAP」の画面

急ブレーキが多発している地点は、地図上に青い矢印で示される。その方向によってどこから接近した場合に多発しているかや、矢印の数でブレーキの強さもわかるようになっている。また、多発している時間帯など詳細もその画面で確認できる。

ピンクの円で示されているのは交通事故多発エリアである。埼玉県警本部や交通事故総合分析センター(ITARDA)から提供された情報で、昨年1年間に4回以上、事故が発生した場所である。

点在する緑の円は地域住民からの投稿情報だ。急ブレーキ多発地点や事故多発地点について、「ここを危ない地点として追加しますか?」の問いをクリックすると、その地点に緑の円が表示される。その他にも、危ないと感じた地点を追加することもできるし、「道路が狭い・歩道がない」や「見通しが悪い」など、危ないと思う理由も反映することができる。

また、ドライバー以外にも、歩行者、バイクや自転車のユーザーなど道を共有する全ての人が、それぞれの立場から「ヒヤリ・ハット」情報を投稿し、共有できる仕組みになっている。

宍戸完さん

宍戸完さん
本田技研工業
グローバルテレマティクス部
アプリケーション企画開発室長

「SAFETY MAP」の使い方について、グローバルテレマティクス部アプリケーション企画開発室長・宍戸完さんは「事前に危険が潜んでいる場所を確認してからクルマに乗り、安全運転に活かしてもらえたら」と話す。出かける前の確認行動が身につけば、「ヒヤリ・ハット」減少にもつながるのでは、というわけだ。
子どもが出かける前に、歩行者や自転車からの情報を教えて飛び出し注意を喚起する、家庭ではそんな使い方をする人も出てくるかもしれない。

「SAFETY MAP」が埼玉県でスタートして約5ヶ月が経過した。このエリアの交通状況に影響はあるだろうか。埼玉県警本部のホームページで一般公開されている「交通事故日報」を開いてみた。
日報には、その前日までに県内で発生した交通事故件数や、その日までの年累計、他県との比較などがまとめられている。

参照した9月5日の事故発生件数は85件、死者数は1人。年累計はそれぞれ443件と4人だが、昨年同日までの累計を比べると、事故は1460件の減少、死者数は17人の減少となっている。
この減少数と「SAFETY MAP」との関係はあるだろうか。埼玉県警本部にお聞きしたところ、「交通対策の効果測定はとても複雑。しかも短期間では因果関係を特定することはできない」ということだった。
つまり効果は未知数。だが、ユーザーからの投稿情報は日々、更新され続けている。「今、SNSの普及で多くの人が投稿慣れしてきています。そこに、情報を提供し、共有することで互いに助け合おうという意識づけができていけばと期待しています」(宍戸さん)。
Hondaでは今後「SAFETY MAP」を全国に展開していく予定だ。

交通事故日報

交通事故日報(埼玉県警本部ホームページより/一部掲載)

危険予測の支援で、安全運転をコーチ。

この9月の新型車の販売に合わせ、「インターナビ」ユーザーに向けて提供が始まった「安全運転コーチング」は、信号のない交差点に特化した安全運転支援である。「危険を予測する能力を引き出すことが目的です」(仙石さん)。

新しいコンテンツ開発にあたり、仙石さんたちは「フローティングカーデータ」から導き出される急ブレーキ多発地点に注目した。事故の危険が潜む場所だ。「その中から事故には至らなかった急ブレーキ発生地点にしぼっていったところ、信号のない交差点が浮かび上がってきました」。事故には至らなかったが急ブレーキをかけなくてはならなかった、つまり「ヒヤリ・ハット」発生地点だ。
さらに、「ここで、このまま走ってもクルマは出て来ないだろうという‘だろう運転’、つまり危険に対する過小評価をした結果、事故を引き起こすケースもあるのでは」と予測した。「だとすると、無信号の交差点での危険予測を支援することにより事故減少につながるのでは」。これが「安全運転コーチング」開発のきっかけとなった。
仙石さんたちは実際に現場に足を運んだ。「地域の方にお話をうかがうと、周囲に何もないことがかえって危険で、どちらからも減速せずに交差点に接近し、あわや衝突といった例もあったことがわかりました」。

「安全運転コーチング」は、このようにして検出された無信号の交差点に近づくとカーナビから「この先、急減速多発地点です」とドライバーに呼びかけ、安全確認を促す。一時停止して確認をすると「安全への心がけ、ありがとうございます」と反応する。

「安全運転コーチング」イメージ

  • 「安全運転コーチング」イメージ1
  • 「安全運転コーチング」イメージ2

カーナビによる安全運転のアドバイスは、ユーザーの安全意識の向上につながるだろうか。

「交差点でどれくらい一時停止したか、その記録からユーザーの運転行動を診断。ユーザーは後車後、パソコンやスマートフォンで自分の運転を振返ることができます。こつこつと一人で安全技術習得を積み重ねることがどのように受け入れられるか、それを見ていきたいと思っています」と仙石さんは話す。
「実は、こんな話しがあります。運転のことになると夫婦間で揉めるそうです。お母さんから指摘されると、お父さんはムッとするとか。でも、カーナビはあくまで中立です(笑)。中立の立場からのアシストなら受け入れやすいのでは」。
数ヶ月、数年後の効果を、見守っていきたいそうだ。

大震災の二日後に立ち上げられた「Crisis Response」。

Google Crisis Response

「フローティングカーデータ」は、「インターナビ」を搭載したクルマから送られてくるリアルタイムの走行データだ。Hondaは、この情報を核に「世の中とオープンにつながることで、さらに役立つ情報を生成、人々と共有する」ことを目指している。

2011年3月12日午後12時30分。東日本大震災発生の翌日、Hondaはホームページに「通行実績情報マップ」を公開した。このベースになったのが「フローティングカーデータ」である。
Hondaグローバルテレマティクス部では、地震発生直後からの「フローティングカーデータ」を分析、処理して公開。その後も、「フローティングカーデータ」は復旧した道路の情報として刻々と地図上に反映されていった。被災地では各地の道路が分断されていたが、これによって、救援に向かう車両は被災地までのルートを確認することが可能になった。

3月14日にはGoogleマップ上に「Google Crisis Response」が一般公開された。Hondaから「通行実績情報マップ」が無償で提供された結果だ。「我々のホームページよりもGoogleを見にいく人のほうが多いですから。より多くの人の目に触れる場所にデータを提供し、社会貢献につながればと思いました」(宍戸さん)。
その後、Googleにはパイオニア、トヨタ、日産からもクルマの走行データが提供され、Hondaとともに4社の情報がひとつの地図になって道路の状況を伝え、被災地支援に役立てられた。

ビッグデータの使いやすいフィードバックで、全ての人の安全安心を。

安全な道路や安心のまちづくり。エコドライブへの活用。豪雨や降雪などの気象情報や災害情報の提供による防災・減災。今、カーナビデータの活用領域は、他の多彩な情報との組み合せによってさまざまに広がっている。活用するメディアはスマートフォンなどの携帯端末に広がり、情報を共有し合う範囲や使い方ももっと広がっていきそうだ。
そして、連携する情報提供先の広がりに加えて、メーカーの枠を超えるだけでなく、官や学等を含む全ての情報の融合が進んでいけば、自動車はそれ自体がセンサーを備えた通信メディアとなり、動くカーナビデータは、さらにさまざまな課題を解決する社会資源のひとつになっていく。
カーナビの向こうに、そんな未来も見えている。
さて、問題は、その周知広報だ。
高齢者にも女性たちにも初心者にもイージーに使うことができる方法を早急に作り上げなければならないだろう。

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