Sustainability Talk 008 小川和久(後編)

写真

Alexandria, VA / USA

逆に9条がなかったら日米同盟が成立していない、という話ではないのですか。

そういうふうに関連付けた議論はありません。
ただ、私の見方ですが、構造的にいえば自衛隊は憲法9条を絵にかいたような軍隊です。
今までの防衛大綱の議論なんて全部でたらめです。
大綱は戦略の話です。
戦略は木に例えれば幹。
その幹がはっきりしたうえで、枝葉の話になる。
何の木かさえもわからないのに、枝葉の話をして「戦車を何両とか、戦闘機を何機」とかいった話では意味がありません。
幹を語るにはまず防衛力の現状を見なくてはならない。
日本の防衛力は二つの柱で成り立っています。
まず日米同盟。
これは補うものです。
そしてもう一つが憲法9条を絵にかいたような自衛隊です。
つまり自衛隊の防衛力は自立できない状況なのです。自分だけでは立てない。
それはアメリカが意識的にそういう構造にしたのです。
ドイツに対してもですが。
自立できるような軍事力にすれば、国力がつけば再び敵になる。
アメリカにとって必要な能力だけ世界最高レベルにしておくが、それだけでも防衛費をかなり食う。
だから自立した軍事力を持ちたくても持てない。
その点を押さえたうえで、自立した軍事力を持つ方向に行くのか。
それとも日米同盟を日本の平和主義にふさわしい形に変質させていくのか。
私は後者の方が現実的と思えますが。
その選択を提起し、語りかけて、国民が選ぶ仕組みがない。
「軍隊を持て、核武装しろ」と言うが、どれくらいの予算がかかるのか、どれほどリスクを伴うのか、考えたことがあるのか。
そう言うと元気のいい人たちも皆、黙ってしまいます。
アメリカは日本が安保を切ることを怖がっている。
日本は、それくらい重要なのです。
だが、日米同盟を解消したのはいいが、今のレベルの平和を実現しようとすると自衛隊が5倍ほど必要になります。
給与だけで年間13兆円、防衛費は年間30兆円。
国民皆兵制にしても20兆円かかります。
同盟関係もなくて心細いから核武装しようという話になるでしょうが、それも出来ない。
国際的孤立というリスクもあるが、それ以前に生活水準の大幅ダウンを招く。
なぜか。核武装するとなると、核拡散防止条約(NPT)から抜けないといけない。
そうすると核燃料を売ってもらえなくなる。
今は、半分はアメリカからきています。
ため込んだものだけで今の生活レベルで使えば半年でなくなってしまう。
すると生活水準は4割ダウンです。
今の日本国民は受け入れられないでしょう。
待機電力なし。
ウォシュレットなし。
そういうこともわかってやるような国民であれば、昭和30年くらいまでにやっているでしょう。
また技術的にもだめです。
6か月でやれるなんて嘘。
もし誰も邪魔をせず、何の制約もなしに核兵器の開発をやっても最低3年はかかります。
これは産経新聞のリサーチです。
むろん、現実的には予算の面でも人の面でも制約があります。
しかも日本には核開発経験者がゼロです。
皆、本で学んだだけだし、弾道ミサイルの開発経験者もいない。
外務省に「小川さんならどうするか」と聞かれたことがあります。
「核開発の追体験が必要だと思う。追体験をどうするか。完全にオープンにしてアメリカに協力を求めて核と弾道ミサイルの研究チームをつくる。その中で核廃絶の提案ができるようにする」と私は答えました。
北朝鮮に関する6者協議も、日本は提案能力がないので座っているだけですよね。

日本は子供ですね。

子供ですよ。何でも一般論から入っていきますからね。
問題なのは、東大教授クラスの研究者でも、「集団的自衛権とは」と言葉の遊びで終わっている。
アメリカを助けに行けないから肩身が狭いとか。
同盟関係は人類の歴史が始まって以来、あるわけです。
得意な面があればやってもらうわけです。
こっちもこれはやるよと、互いにあてにできる部分を確認しながら進める。
個別的自衛権、集団的自衛権の考えは戦後生まれです。
だから、言葉の遊びに終始するのではなく、同盟関係の基本に戻って、ここはやるから、この部分はやってくれと確認しなくてはなりません。
現在の役割分担としては、日本は自立できない軍事力だから、アメリカを助けに行けるのは日本周辺しかないのです。
そしてアメリカは自立できる軍事力を日本が持つことを望んでいない。
だが日本に85か所の基地を置いて、日本列島ごと自衛隊でそれを守っている。
在日米軍経費を年間5千億円かけている。(そのうち1900億円は思いやり予算。)
そして、日本列島が支えている米軍は地球の半分で活動する。
インド洋のすべてと太平洋の3分の1です。
日本周辺においては米軍と一緒に日本も血を流す。
国際平和活動もどんどんやっていく。
これを日本の集団的自衛権の行使として認めさせるのは難しくない。
だが日本のインテリゲンチャは言葉から入って現実を見ていません。
どのように軍事力を眺めればよいかも知りません。
軍事力がどのような構造をしているかは、トライアスロンに例えるとわかります。
遠泳、マラソン、自転車。
これでいい記録を出しているのがアメリカです。
日本とドイツはどうか。
マラソンと自転車は相当いいが、泳げない。
泳ぎ方を教えてもらっていないのです。
アメリカが教えない。
だから自立できない構造の軍事力なのです。
そんな構造の軍事力なのに、世界で何番目ですかと聞く方がおかしいでしょう。