APRSO & CAREC Road Safety Capacity Building Program Webinar Series1
Session3が2025年4月8日開催されました。
テーマ:「データによる効果的な戦略計画と行動計画の策定」
2025年4月8日に開催された「APRSO & CAREC Road Safety Capacity Building Program Webinar Series」の第3回セッションでは、データによる効果的な戦略計画と行動計画の策定について、詳細な概要の説明がありました。
具体的には、次の点についてです。
- 効果的な道路安全戦略と行動計画の策定に、WHOの2023年世界道路安全状況報告書やその他の補完的なデータ ソースのデータを活用する方法
- さまざまな国が戦略と行動計画の策定プロセスにデータをどのように活用しているかについてのケーススタディ
第1回ではWHOのグローバルステータスレポートについて、第2回ではその補完となるさまざまなデータソースの活用について取り上げられました。今回の第3回ウェビナーでは、それらのデータを活用し交通安全戦略とアクションプランを策定する方法について学ぶ内容となっており、Jessica Truong氏が戦略と計画立案について説明した後、アルメニアのArevhat Poghosyan氏が、実際に同国で行われた事例を紹介しました。
プレゼンテーション1
Jessica TruongSecretary General, Towards Zero Foundation (TZF)
プレゼンテーション2
Arevhat PoghosyanAPRSO Focal for Armenia (Ministry of Territorial Administration and Infrastructure, Armenia)
プレゼンテーション1:Jessica Truong
テーマ:ロードセーフティ戦略とアクションプランの策定について
ロードセーフティ戦略やアクションプランを作成する際には、多くの要素を考慮する必要があります。本日のプレゼンテーションですべてをカバーすることはできませんが、特に重要なポイントをいくつかご紹介します。
戦略・アクションプランの策定で検討すべき主な項目は以下のとおりです:
- 目標設定(ターゲットセッティング)
- 交通システムの設計
- データ分析とモデリング
- アクションプランと戦略的対応
- コミュニティとの意見交換
今回のプレゼンテーションでは、これらの項目について順に触れていきます。
1. 目標設定(ターゲットセッティング)
ロードセーフティ戦略の策定を始める際、まず政治家や関係者から必ず問われるのが「何を目指すのか?」ということです。つまり、この戦略の目的は何か、どんな成果を達成しようとしているのか、という点を明確にする必要があります。
目標を設定する際は、長期目標と短期目標の両方を考慮することが大切です。OECDなどの国際機関からも、即効性のある目標だけでなく、将来を見据えた野心的な長期ビジョンを描くよう推奨されています。目標は以下の3点を兼ね備えている必要があります。
- ビジョン性(Visionary)
- 具体性(Tangible)
- 信頼性(Credible)
短期目標の重要性
ただし、長期目標だけでは現場にとって遠い話に感じてしまうため、中間目標(インタリムターゲット)も同時に設定するべきです。これもまた、達成可能でありながら意欲的な目標である必要があります。そして、その数値は単なる政治判断ではなく、データ分析に基づいて設定することが重要です。
たとえば「30%削減が良さそうだから」といった曖昧な決定ではなく、実際にどれくらいの命を救うことが可能なのか、どこまでの削減が現実的なのかをデータから導き出し、その上で目標を立てるべきです。
ロードセーフティ戦略とアクションプランの役割
道路交通安全には多くの関係者が関わっており、戦略やアクションプランを作成することで、共通の目標のもと関係者を結集し、それぞれの役割を明確にすることができます。これによって、各組織がどのように交通事故の削減に貢献できるかが明確になり、より効果的な連携が図れるのです。
さらに、自国の交通安全上の優先課題を特定する役割も果たします。例えば、歩行者の安全なのか、飲酒運転なのか、スピード超過なのか、ガードレールの整備不足なのか──何を重点的に改善すべきかを明らかにし、その上で今後5年、10年、15年の投資や対策の方向性を決定するための枠組みを提供します。
もし戦略やアクションプランがない場合、短期・長期でどのような行動を取るべきか判断するのは非常に困難になります。
ロードセーフティ戦略の必要性
戦略やプランが存在することで、交通安全の重要性が社会で認識され、他の公衆衛生課題と同様に注目されるようになります。また、戦略に基づいて優先分野を定めることで、必要な予算の確保にもつながり、地域社会にも交通安全への本気度が伝わるのです。
さらに、交通安全への投資は高額と思われがちですが、実際には逆で、投資しない方が将来的に大きなコストがかかるとする研究結果もあります。ある調査では、現在の交通事故による損失額のわずか10%を投資するだけで、将来的にその70%の損失を防ぐことができるとされています。
つまり、交通安全への投資は費用対効果の高い賢明な選択であり、2030年の国際目標達成に向けて、すべての国が戦略とアクションプランを持つべきである理由がここにあります。
ターゲットセッティングの考え方
戦略の策定を始める際、まず求められるのが「何を目指すのか?」という目的設定です。ターゲットは、長期目標(ビジョン)と短期・中期目標(インタリムターゲット)の両方を設定することが重要です。
長期目標はビジョン性があり、具体的で信頼性があることが求められ、短期目標はデータに基づき、達成可能でありながら意欲的な設定とするべきです。例えば「30%削減が良さそうだから」ではなく、実際に救える命の数や実行可能性をデータから導き出し設定します。
国際的な目標
現在、国連のグローバル目標では2030年までに交通事故死傷者数を50%削減することが掲げられており、多くの国がこの目標に署名しています。しかし、一部の国・地域ではさらに意欲的な目標を掲げているところもあります
さらに意欲
例えば、ある国や地域では交通事故死者ゼロ(ビジョンゼロ)という非常に高い目標を掲げているケースもあります。これは「交通事故による死者や重傷者は社会にとって容認できない」という考え方に基づき、ゼロを目指すものです。
ターゲット設定のまとめ
目標設定では、
- ①長期目標(ビジョン的・意欲的・信頼性あるもの)
- ②短期/中期目標(データに基づき、実現可能かつ意欲的なもの)
を組み合わせ、全体の計画性と実効性を高めることが重要です。
2. 戦略・アクションプラン策定の主な要素
戦略やプランを作成する際には、以下の要素も考慮すべきと説明されています。
- ターゲット設定
- 安全なシステム設計(インフラ・車両・法規制など)
- モデル化とデータ分析
- 具体的なアクションプランと対応策の検討
- 地域社会との対話・意見収集
これらをバランスよく計画に組み込むことで、より効果的な戦略が実現できます。
より意欲的な目標設定の動き
一部の国・地域では、2030年の目標達成だけでなく、2050年までに交通事故死傷ゼロ(絶対ゼロ)を掲げる動きも進んでいます。
例:EU、アメリカ、オーストラリアのNSW州・ビクトリア州、ロンドン交通局など。
意欲的な目標を持つメリット
- 現在の目標をより広い視点で捉え直すことができる
- 政策・プログラム・革新を後押しする
- 関係者の協力と連携を促進する
- 安全なシステムアプローチを現実的なものと認識できるようになる
- 行動を具体化しやすくなる
目標設定のポイント
- 意欲的であることは大事だが、現実的な目標も必要
- 国ごとのデータを確認し、現在の死亡・重傷者数や減少傾向を分析して目標を設定する
3. 世界の進捗状況(ユニタールの報告)
2030年までに50%減を達成するには、年6.7%の減少が必要。
しかし、現状そのペースを維持できている国はわずか7か国。
一部の国ではむしろ死亡者数が増加している。
→意欲的すぎる目標は達成できないと逆効果になることも。
短期・中期・長期目標の設定
- 短期・中期の目標期間は最低5年(交通安全対策は効果が出るまで時間がかかるため)
- 5年目標:迅速な着手を促し、政権任期とも連動しやすい
- 10年目標:政策や技術の効果が現れるまでの余裕を確保できる
→国の状況やデータを見ながら期間を決定するのが望ましい
スウェーデンの事例
- 2030年までの死亡者数・重傷者数の具体目標を設定
- 年間の死亡者数・重傷者数を把握し、目標年までの推移を設定する
- さらに、若年層・飲酒運転・スピード超過・自転車事故などの細分化目標も設定可能
4. 質問・アンケート(セミナー中にアンケート実施)
皆さんの国の交通安全戦略・目標の状況を教えてくださいというアンケート
- 交通死亡者数のみの削減目標
- 重傷者数も含む目標
- 現在目標がない
- 戦略自体もない
→この質問をもとに国ごとの現状把握
結果を踏まえて、参加者のうち約73%の方が、現在すでに戦略やアクションプランを策定・実行中であり、残りの約3分の1の方は、現時点ではまだ戦略やアクションプランがない、という結果でした。
この結果は、実は世界全体の傾向とかなり一致しています。こちらはWHOの最新の現状レポートからのデータですが、各国の状況を調べたところ、193か国の加盟国のうち117か国がすでに国家としての交通安全戦略を持っています。つまりこちらも約3分の1の国は戦略を持っていないという状況です。そして、戦略を持っている国のうち、実際にその戦略で掲げた施策を実行するための十分な予算が確保できている国は16か国のみ。さらに65か国は一部の施策について部分的な資金提供を受けている状態です。その資金源としては、主に自動車税、酒税、保険料などの税収や、スピード違反、飲酒運転、信号無視などの罰金を財源として交通安全事業に充てているケースが多いです。つまり今回の私たちのアンケート結果も、世界の現状とほぼ同じ傾向が現れているということです。
ということは、まだまだ全ての国が確かな戦略と計画を持つには道のりがありそうです。では、次のセッションに進みましょう。ここでは、死亡・重傷事故削減の目標値を設定することの重要性について少し触れましたが、戦略を立てる際には、その目標数値だけにとらわれず、「その目標達成のためにどんな交通輸送システムが必要になるのか」を考えることも同じくらい重要です。
「安全な交通輸送システムとはどういうものか」「2030年までに交通死亡事故を50%減らすためにはどんなシステムが必要か」「2050年までに死亡者ゼロを実現するにはどんな仕組みが必要か」という点を考える必要があります。大きな目標を掲げるのは素晴らしいことですが、その目標を達成するために必要な要素、システム要件をきちんと理解しておくことが重要です。また、道路利用者の種類、道路ネットワークの性質、移動させたい人・モノの種類によっても、理想のシステム像は変わってきます。
最近の戦略策定方法の流れとして、「未来から逆算する」という考え方=バックキャスティングが取り入れられていることをご紹介します。これは、まず将来の目標を定め(例えば2030年に死亡事故を50%削減する)、そのときの理想の交通環境を描いた上で、そこに至るまでに「今から5年後、10年後に何をすべきか」を逆算してアクションを決める方法です。つまり、現在の問題のみに目を向けるのではなく、「未来にどうありたいか」を出発点にして戦略を考えるのです。例えば、「子どもが安全に徒歩通学できる未来」「誰も死亡せず、重傷を負わない社会」をビジョンとして掲げ、それを実現するために各年代ごとに投資すべき分野、優先するべき施策を決めていくのです。
ビジョンゼロ型の計画と戦略を考える際には、「これが良さそう」「地域の人にウケが良さそう」ではなく、必ずエビデンスとデータ、そしてベストプラクティスに基づくべきだということも強調しています。その考え方のベースには、セーフシステム・アプローチがあります。その中の大事な考え方のひとつが、「人間の身体が耐えられる衝撃の限界」を前提とし、それを超えないようエネルギーを適切にコントロールすることです。
衝突形態ごとに人体が致命傷を負う速度の限界値を示したものです。これは昔から知られていたものですが、近年さらに詳細なデータが得られるようになり、例えば車と自転車の事故、バイク同士の事故、車と樹木の衝突など様々なパターンごとに「致死的な衝撃の発生する速度」が明確になっています。そのデータを交通システム設計に活かしていくことが重要です。
こうした衝撃耐性データを活用し、すべての人が安全な交通システムを実現するための設計が可能になってきていることも示しています。
ただし、もちろん交通システムは人やモノを移動させるためのものなので、単純に制限速度を極端に低くすれば良いというものでもありません。もし仮に速度を極端に下げれば、確かに安全性は上がるかもしれませんが、交通機能としては成り立たなくなってしまいます。そこで、戦略・アクションプラン策定時に非常に役立つのが、その国や都市が描く未来の交通ビジョン(トランスポートプラン)です。ニュージーランドでは、彼らは将来、どこで歩行者を優先し、どこで車両の移動を優先し、どこを混在利用にするかといった方針を明確にしたプランを作成しています。そして、それをもとに交通安全対策をどう重ねていくかを考えている
さらに重要なこととして、その都市・国のモビリティニーズ(移動の目的・方向性)をまず把握することが挙げられています。例えば、「歩行・自転車などアクティブトラベルを増やしたいのか」「車中心の社会にしたいのか」「バイク利用を重視するのか」など、都市や国によって目指す姿は異なって当然です。それをしっかり確認し、その上に安全対策を重ねていくのが戦略設計の正しい手順です。
その際に、さきほどの人体耐性データや衝突速度データなども活用して、適切な速度設定、インフラ設計、車両安全対策などを組み合わせた安全かつ機能的な交通システムの設計図を作り上げることが求められます。交通の未来ビジョンを決め、安全性を重ね合わせ、最終的に行うべき投資・施策をまとめた行動計画(アクションプラン)を作成する、という流れになります。
戦略と行動計画の策定は必ずデータ分析に基づいて行うべき、という点も改めて強調しています。WHOのグローバルステータスレポートでもさまざまな対策が紹介されていますが、今のところそこに優先順位は示されていません。
つまり、そこに載っている100以上の対策から「これが良さそう」「うちの国にはこれかな」とただ選ぶのではなく、自国の交通事故の実態、事故原因の傾向をよく把握し、その地域の事情に合わせて最適な優先順位をつけて実行することが非常に重要です。
この内容は、交通安全の戦略を立てる際に重要なポイントをいくつか説明しています。主に、各地域での交通の状況やトラウマの問題が異なることを認識し、どのように適切な対策を立てるかに焦点を当てています。特に、以下のポイントが強調されています:
- 地域ごとのニーズの違い:ヨーロッパと東南アジアでは、交通手段や事故の状況が異なるため、トラウマの問題やその解決策も違ってきます。例えば、ヨーロッパではバイクが全体の交通手段の約20%を占めるのに対し、東南アジアでは90%近くにもなり、そのために必要な対策も異なります。
- 公平性と倫理的配慮:交通安全の計画を立てる際、コストだけでなく、すべての道路利用者が公平に保護されるようにすることが大切です。特に、年齢や性別、交通手段(車、歩行者、バイクなど)によって偏りがないようにする必要があります。
- 目標設定と進捗評価:高レベルの目標(例えば、事故死亡者数の50%削減)に加え、具体的な指標(例えば、道路を走る車の90%が制限速度を守る、すべてのドライバーが飲酒運転をしないなど)を設定することが重要です。
- データ分析とモデリング:戦略やアクションプランが実際に目標達成にどれだけ近づくかを確認するためには、モデリングとデータ分析が必要です。データ分析には、マクロレベルの統計モデリング(大量のデータを使って全体の傾向を分析する方法)と、マイクロレベルのケースバイケース分析(個別の事故データを使って、どこで改善が必要かを詳細に把握する方法)があります。
- ケースバイケース分析の利点:個別の事故を分析することで、どの事故が防げるか、どの道路利用者が十分に保護されていないかが明確にわかります。これにより、追加の対策が必要な分野が見えてきます。
このように、目標設定、システム設計、データ分析を通じて、より効果的な交通安全の計画を立てることができます。
「交通安全戦略の開発プロセスに関する報告書」について
本レポートでは、交通安全戦略の開発におけるデータモデリング、ギャップ分析、戦略的対応、コミュニケーションの重要性について説明します。これらのプロセスを通じて、交通事故による死亡や重傷を減少させるための効果的なアプローチを構築する方法を探ります。
1. データモデリングとギャップ分析
交通安全戦略の効果を評価するために、データモデリングと分析が重要な役割を果たします。具体的には、現在の交通システムの状態を評価し、目標年である2030年や2050年に向けて必要な改善措置を特定します。これにより、現状と目標のギャップを明確にし、必要な作業量を把握することができます。ギャップ分析を通じて、各国は自国の現状と目標に基づいた現実的なアクションプランを策定できます。
2. グローバルな課題
交通死亡や重傷に関する指標の定義が国によって異なるため、国際的な比較が難しく、目標設定や進捗管理が困難な現状があります。特に「重傷」の定義が国際的に統一されていないため、各国で重傷の報告方法が異なり、戦略の策定や進捗の評価が困難です。これに対し、グローバルな共通定義の確立が求められています。
3. 戦略的対応と優先順位の設定
戦略の実施において、いつ投資を開始し、どのタイミングで実施するかを決定することが重要です。データモデリングを活用することで、例えば投資の開始時期が早ければ、2050年に向けてより多くの命を救える可能性が高くなることが分かります。戦略的対応モデルを使用することで、投資のタイミングとその影響を予測し、ステークホルダーと議論することができます。
4. コミュニケーションの重要性
交通安全戦略を実行するには、地域社会とのコミュニケーションが不可欠です。特に、制限速度の変更など、政治的に敏感な変更を行う際には、地域住民に対して変更の目的やその重要性を十分に説明することが重要です。住民が変更に対する理解と支持を得ることで、政府や政治家もこれらの変更を実施しやすくなります。また、住民との意見交換を通じて、彼らが安全対策にどのように関与できるかを考慮することが、交通安全戦略の成功に繋がります。
5. データの重要性
戦略を策定するためには、ある程度のデータが必要です。しかし、詳細なデータが不足している場合でも、基本的なデータを使用して戦略を作成することは可能です。最低限必要なのは、死亡事故や重傷の発生状況を把握することです。これにより、具体的な問題を特定し、よりターゲットを絞った対応が可能となります。データが不足している場合でも、既存のデータを活用し、戦略を立てることができるという点が強調されました。
まとめ
このセッションでは、
- データ分析を基盤とした目標設定の重要性
- 戦略と行動計画を通じた関係者の連携と優先課題の明確化
- 意欲的かつ実現可能な目標をデータから導き出す方法
について学びました。
戦略とアクションプランは単なる書類ではなく、交通事故死傷者を減らす具体的な行動と社会の意思表示であり、関係機関の連携強化と将来的な持続的投資を促進する重要なツールであることが改めて強調されました。
プレゼンテーション2:Arevhat Poghosya
テーマ:アルメニアにおける道路安全政策の現状と戦略
アルメニア内務省のデータ管理インフラ部門 道路政策課長アルファボラン氏は、様々な国や専門家が参加する今回のフォーラムに感謝と歓迎の意を表し、アルメニア国内の道路安全の現状と政府の取り組み、課題について説明を行いました。
アルメニアの道路事故の現状
- 道路事故の被害状況
>アルメニアでは、農村部を中心に年間数百人規模の死者が発生しており、隣国と比較しても非常に高い死亡率となっています。
2010年〜2024年の期間で5316件の事故が発生し、多数の死傷者が出ています。これは単なる数字ではなく、多くの家庭や地域社会を壊してきた深刻な問題であると指摘しています。 - 発生場所の特徴
市街地の道路:67%
州間道路(インターステートルート):約40%
→これは高速走行が主な要因とされています。 - 増加傾向
事故件数は、2010年から2024年にかけて1043.7%増加と急増。
しかし、2024年には施策の効果により、事故件数が300件(6.5%減)、死亡者数が45人、負傷者が421人減少しました。 - 原因分析
主な原因は運転者の違反行為によるものと分析されています。
国家道路安全戦略の策定と改訂
- ADP(アジア開発銀行)の支援により、国家道路安全戦略を策定。
ただし、この戦略は2021年に停止しており、現状に合わせた再構築が必要と判断しています。 - 新たな5本柱の戦略を策定し、国連の「Global Plan for the Decade of Action for Road Safety」に基づく12ターゲットを盛り込んだ計画に刷新しました。
- 政府方針の変更に伴い、道路安全単独戦略は包括的交通戦略の一部に統合。
- USAID支援の中断
USAIDの支援停止により、新たな交通戦略計画も保留中。現在、世界銀行との協議中です。
- フェーズ1(2024〜2025)
交通インフラの近代化
交通死亡者数の50%削減
負傷者と事故被害の軽減 - フェーズ2(2025〜2030)
包括的で統合された安全管理体制の確立
交通死亡者数を追加で10%削減
- 2022年、首相決定により省庁横断委員会設立
副首相が議長を務め、各関係機関が参加しています。 - 課題
現在、リード機関(Lead Agency)が不在。
2025年に向け国家道路安全機関の設立が議論されており、近日中に国会でも正式に審議予定です。
- 国連とINITY支援で開発した地理情報事故解析システム(2021〜2024)
→地理座標ベースの事故データ管理。
→現在のシステムは利便性に欠け、改修予定です。 - 今後の計画
交通警察、病院、保険、車両検査情報を統合した総合事故データベースを構築。
さらに東欧パートナーシップ5か国(ウクライナ・ジョージアなど)と相互分析可能なシステムも開発予定です。
- 2024年に法改正案を策定
インフラ安全管理指
トンネル安全基準
事故多発地点(ブラックスポット)対策義務化
安全監査と監査員資格要件などを盛り込んだ法改正を進行中です。 - インフラ整備状況
2022年:7地点のブラックスポット改善
2024年:10か所の新規ブラックスポット改善計画を設計
2026〜2028年に60か所改善予定です。
- 電動キックスクーターの規制
→使用可能年齢を8歳以上とし、16歳以上には免許要件を課します。 - 職業ドライバーの資格・研修要件の改定
- 車両の技術検査制度の改正
危険物運搬車両の検査義務
整備士の資格要件明確化
N3カテゴリー車両のスピードリミッター義務化
- 交通事故の深刻な現状に対し、段階的かつ包括的な戦略の策定・法改正・インフラ整備を推進中です。
- データシステムの統合・ブラックスポット対策・リード機関の設置が急務です。
- 今後も国際協力・他国との連携を強化し、交通安全水準の向上を目指す方針です。
今回のウェビナーでのアンケートの結果とほぼ同様に、WHOの最新の現状レポートからのデータでは193か国の加盟国のうち約3分の2の国がすでに国家としての交通安全戦略を持っていて、約3分の1の国は戦略を持っていないという状況があります。そして、戦略を持っている国のうち、実際にその戦略で掲げた施策を実行するための十分な予算が確保できている国は16か国のみです。さらに65か国は一部の施策について部分的な資金しか用意されていないのが現状です。
アルメニアのプレゼンテーションにもあったように、データ不足は大きな課題ですが、資金不足も大きな課題です。その中でもアルメニアにおいてはUSAIDの支援停止は大きな痛手なのでしょう。