Sustainability talk 15 田中伸男(後編)

しかし、その点では原爆の経験がある日本のほうが、どう考えても反応が強くなるはずでは。

日本は原子爆弾を受けたわりには、今まで原子力について後ろ向きでなかったですね。
私も小学校で未来技術としての「原子の火」の重要性を勉強した記憶があります。
日本はどうすべきか、他の国はどうしているか。

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Geneva / Switzerland

ドイツも実は30年、40年と議論をしてきて、決めたのです。
昨日、今日の議論で決めたわけではありません。
ドイツの決断は決断として尊重しなければなりません。

ただ、政策を頻繁に変えるのはよくありません。
政策がスイッチの入り切りのように変わると、民間投資がおこらなくなります。
それは再生可能エネルギーもしかりで、安定した助政策が見えないと、初期投資が巨額なので、誰も投資しないのです。
きちっと議論して決め、それを政治によって曲げないで維持していくことが重要です。
近視眼的に「来年の選挙に勝たなくてはならないから変える」というのはよくありません。

今回のドイツの決断は明らかにそうでしょう。
必ずしも長期的なセキュリティ、サステナビリティを考えたとはとても思えません。
ガスの輸入増や、風力、太陽光発電によって、電力の値段も上がってしまうでしょう。
ロシア依存というセキュリティ上の問題も起こりえます。
ドイツの最大の問題は、自国の政治状況で決め、他の国々に相談をしなかったことです。
他国のガス輸入価格や、電力料金に影響がありうるからです。
EC委員会でも議論を始めるようです。

他方、日本は国内の連携さえ不十分です。
その状況で、原発を「やめる」「やめない」の議論は早計なのでは。

韓国、ロシアとつながると、今よりもっと対話が増えますね。

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Vienna / Austria

そうですね、ジオポリティクスが変わってくるでしょう。
エネルギーは国の根幹で、互いの生死を握るくらいの問題でもあります。
ヨーロッパはまさにそういう決断をしました。
ドイツがロシア(当時ソビエト連邦)からガスのパイプラインを引き、天然ガスの輸入を決めましたが、これによりロシアとヨーロッパはつながりました。
エネルギーに関する限り、経済的には一体、というくらいになった。
それはロシアとヨーロッパの信頼関係にもよい影響を与えたかもしれません。

そう考えると、たとえば日ロ間の北方領土問題なども新たなジオポリティクスを作れたら、未来があるかもしれません。
そうした関係ができないと、ただ北方領土を「返せ、返せ」というだけでは返ってこないでしょうね。
逆に言えば、電力系統線をつなぐ、ガスパイプラインをつなぐということについては、大変な政治的決断が必要だと言えるでしょう。