Sustainability talk 14

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Washington D.C. / USA

田中さんはIEA(国際エネルギー機関)におられた頃、京都議定書やCOP21にあたって「宣教師」のように、エネルギー政策にあり方を説いて回られたわけですが。

COPがバリ(COP13/インドネシア2007)、ポズナン(COP14/ポーランド2008)、コペンハーゲン(COP15/デンマーク2009)、カンクン(COP16/メキシコ2010)で開催されたときのことですね。

二酸化炭素排出量を目標通りに減らすには、相当なエネルギーインフラに対する投資が必要です。
「それは省エネであり、再生可能エネルギーや原子力であり、またCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage 二酸化炭素の回収・貯蔵)などへの投資がないと、半減はなかなか難しいのではないでしょうか」といったことを常日頃、数字を示しながら説明をしました。
その場合、「必要な二酸化炭素の値段がいくらですとか、何兆ドルの投資が必要です」といったことや、「原発に至っては二酸化炭素削減のためには毎年20基、あるいは30基の増設が必要です」といった数字を示してきました。

ところが今回の福島の事故で、原子力利用のスピードが遅くなるであろうと考えられるので、今度の「2011年世界エネルギー見通し(WEO2011)」では、低原子力ケースつまり原子力利用が従来より遅れる場合のシナリオを作っているのです。
その場合、どれだけ他のエネルギー源が必要になるか、つまりガス、石炭、再生可能エネルギーなどをどれだけ増やさなくてはならないか計算をしています。
現在、電源のうち14%程度が原子力ですが、30年先までにはこれが10%程度まで減っていくというシナリオです。

しかし、このシナリオのようになれば、2035年くらいにはガスがおよそ800億立米、つまり新しくカタールがもうひとつ必要になります。
石炭では、オーストラリアの一般炭輸出が2倍必要になる、つまりもうひとつオーストラリアが必要になるわけです。
また再生可能エネルギーの場合は、ドイツが今風力や太陽光に取り組んでいますが、それが約5倍必要になります。
それくらいとてつもない量の新たなエネルギー源が必要となるわけです。
従って、電力の値段は上がりますし、ガスや石炭の輸入が増えると当然、セキュリティの問題も起こります。
対外依存が高まるからです。

一方、二酸化炭素排出量はどうなるかというと、当然、増えます。
つまりこのシナリオは、more costly, less sustainable and less secured となるのです。
また、CCS(二酸化炭素の回収・貯蔵)もなかなか立ち上がってこない。
そして「450シナリオ」(2050年までにエネルギー起源の二酸化炭素排出量を現在より半減させるシナリオ、大気中の温室効果ガス濃度を二酸化炭素換算で450ppmに抑える/2009年IEA発表)の実現はほぼ不可能となります。

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London / UK

「2050年までに二酸化炭素排出量を半減など、まるでサイエンスフィクションだ」と言って叱られたことがあるんですが、いや、サイエンスフィクションどころでなく、完全にフィクションになってしまう。
ではどうするのか。
南アフリカ共和国のダーバンで次のCOP17(2011年11月28日〜12月9日)、をやりますが、そこでどうなるのか。

我々は、各国がやるべきもの、つまりそれぞれの国がとるべき措置は明らかです。
やれることだけやりましょう、そうすれば少なくとも、450シナリオまでいかないにしても、温暖化の程度を抑えることができます。

もう一つのシナリオとして、天然ガスを使うシナリオがあります。
非在来型(シェール/頁岩)ガスがアメリカから大量に出ていますし、中国、オーストラリアから大量の炭層メタンが、発見されています。
おそらくオーストラリアは、2020年にはカタールを追い越して世界一のLNG輸出国になるでしょう。
従って、こうしたリソースがあり、かつ需要も中国はじめとした国々で延びるでしょう。
アメリカではガスは非常に安いので、発電以外の分野、例えば天然ガスを使用したトラックやバスが今後、出てくるのではと思います。
それらを考えると、これからガスの黄金時代が来るかもしれません。
しかしながら、石炭をリプレイスするという意味では二酸化炭素排出量は減りますが、ガスが安いから使用料が増えていくと、当然二酸化炭素排出量も増え、さらに原子力をガスでリプレイスするとなると原子力が減っていく一方で二酸化炭素排出量も増えます。
再生可能エネルギーについても同様のことが言えます。
IEAのシナリオでは最終的には二酸化炭素の排出は減りません。

他方、ガス黄金時代のシナリオは、セキュリティ上は良いことです。
在来型ガスの最大のポテンシャルがあるロシア、カタール、イラン、アルジェリアに加え、カナダやアメリカ、オーストラリア、中国、ポーランド、インドネシアなどのガスも使えるようになり、ソースが多様化するからです。
しかし、エネルギーセキュリティ上は良いのですが、二酸化炭素排出量は増えるので450シナリオには残念ながら貢献しないのです。