Sustainability Talk 14 田中伸男(前編)

韓国やロシアとつなぎ、「環日本海エネルギー経済圏」といったヴィジョンを考えたらどうか。

田中伸男 財団法人日本エネルギー経済研究所 特別顧問

写真:田中伸男

IEA(国際エネルギー機関)の事務局長だった田中伸男氏が、任期を終えられて帰国された。
本サイトでは早速、ご登場いただいた。
COP17ダーバンでは京都議定書の再検証がされようとしている今、リーマンショック後、そして震災後のエネルギーの未来を存分に語ってもらった。
まずは、画期的と思える前編。

福島第一原子力発電所で事故が発生して以来、日本国内は脱原発か継続・推進かで揺れています。

我が国の場合は突然、原発なしというわけにはいかないでしょうね。
たとえば、「原発には頼らない」と決めたドイツは、ヨーロッパの他の国々と系統線がつながっているのです。
ヨーロッパ全体がひとつのマーケットになっています。
もちろん、再生可能エネルギーや自然エネルギーへの転換を探っていく、それはそれでいいのですが、それだけではどうしても短期間では間に合わない。
ドイツにはEU諸国との間で相互に電力を融通するというメカニズムがあります。
しかし、日本の場合は国内ですら、周波数の違いがある。
東西間で融通可能な電力量は100万kw程度。
これでは、今回のような緊急時には足りないでしょう。

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Vienna / Austria

従って、IEAは以前から次のように提案しています。
まず、東西間を含めて国内全体をグリッドでつなぎ、ひとつのマーケットをつくる。
そうすれば、再生可能エネルギーのような変動する電源も使いやすくなります。
かつ、隣の国である韓国やロシアともつなぎ、「環日本海エネルギー経済圏」といったヴィジョンを考えたらどうか。
将来のビジョンを持ちながら、「日本ではどのような電源構成を持ち、どのような技術を持っていることが重要なのか」という議論ができると思います。

ロシア、韓国、その先にある中国、インドなど各国が原子力発電を推し進めているわけですから、それらの国々に安全に原子力発電を進めてもらうためには、日本も最も安全な原子力技術を持っていることが重要です。
そうなれば、これは外交上レバレッジとなり得ます。
よしんばロシアから天然ガスを買ってくるにしても、そうした原子力を持たず丸腰では、「ガスをください」と頼んでも、良いディールはできないでしょう。
それでは非常に立場が弱い。

ドイツが抱える最大の問題は、原発を止めるとしたら再生可能エネルギーだけでは立ちゆかないため、これからガスを買わなくてはならないのですが、それは他への依存が増えることです。
ロシアなど他国に頼らざるを得ません。
そういったことから、いずれ原子力は減らすにしても、そのくらいの十分なエネルギー供給源が必要であり、それを可能にするフレームワーク、たとえばグリッドの整備が必要です。

それから今、国内でも「発送電分離」という考えが出て来ていますが、EUは国内をひとつのマーケットにして誰からでも買え、誰にでも売れる、というようにしておかないとなかなか競争が起こらないということで、発送電分離を進めています。
発送電分離だけが手段ではなくいろいろなやり方があり、機能的発送電分離のようなやり方を取っている国もあります。

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Rome / Italy

いずれにしても技術の問題というよりも、エネルギー市場をどのようにデザインするかが再生可能エネルギーを増やす道なのです。
そして、セキュリティを高めることにも役立ちます。
つまり日本全体をひとつの市場とし、かつ外国ともつないでさまざまなオプション、いろいろなエネルギーソースを持つことがセキュリティにもサステナビリティにもよいのではないかと思います。