Sustainability talk 15 田中伸男(後編)

それは、実績があるのですか。

あります。
いろいろなデータで示されていますし、既に中国から石炭発電の視察に来ています。
ただし、コストが高い。
高くなってしまうのは仕方がないけれども、実際に中国と実験を行なっています。
できるだけ効率の良いもので発電効率を高めて、そこから二酸化炭素を回収し地中に埋めないと。
しかし回収するところでさらにエネルギーを使うわけですから、効率の悪い発電を行なっていては使ったうちの半分くらいを使って回収することになるわけなので意味がない。
発電効率が良くないと、CCSはワークしません。

ほかに、日本がやるべきことは、欧州のレッスンを学んで、国内のグリッドをきちんとすることでしょう。
そのために必要な技術、スマートグリッド、同時に需要再度の変動もうまく動かしてピークを減らすようにすれば、全体として安くできるようになりますから。
需要管理の技術ですね。

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Geneva Motorshow 2011

これは何かというと、スマートメーターと言われるものです。
需要がピーク時になれば電気の価格が高くなります。
リアルタイムに値段が変化し、それに応じて消費者が行動を変えるという市場メカニズムを需要サイドに入れるのです。
これはまだやっていないことですね。

カリフォルニア、オーストラリアの一部の都市、スイスなどでやっていますが、実績はあります。
ただしこれも、電力会社が新しい技術を拒んだら実現しません。
電力もビジネスですから、たくさん売ればよいという常識があって、売らないことのインセンティブは根付きません。
つまり、そういったシステムや需給管理をうまくやる技術を得れば、世界にも打ち出していけるかもしれませんね。

国内をひとつのマーケットにできたら、次にやるべきことは、それを海外とつなぐことでしょう。
日本に電気を売りたいと言っているロシア、韓国とつなぎ、環日本海で新たな東アジア経済成長圏をつくる、といったことでしょう。
そのようにしないと、ロシアもまじめにエネルギーインフラに投資しません。
輸出だけでは非常に不安定だからです。
人口が増えて太平洋側でのロシア経済の需要が増えてくれば投資も進むでしょう。

そういった環境を作るには、環日本海構想のようなものは面白いと思います。
スペインの人々はデザーテックを「エナジー・フォー・ピース」と呼んでいます。
なぜそう呼ぶのかというと、ひとつにはアラブの国々とキリスト教の国々とをグリッドでつなぐということです。

また、昔から石油、石炭などの昔の限られた資源ではエネルギー源の取り合いがありました。
資源の奪い合いが、戦争につながる歴史でした。
しかし、再生可能エネルギーは無限です。
奪い合いにならないのだから互いにシェアすればいい、だから「エナジー・フォー・ピース」なのです。

実は原子力もそういう思想がありました。
「アトム・フォー・ピース(原子力の平和利用)」と。
原子力の場合も、無限のエネルギー源を人類は手に入れ原発はそのための技術です。

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Geneva Motorshow 2011

最近、ソフトバンク社長の孫正義さんが「アジアスーパーグリッド」という構想を明らかにされましたが、中国、さらにモンゴルまでつなぎ、モンゴルで安く発電したものを買ってくる、そしてさらにベトナム、インドまでつなぐという壮大な構想ですが、アジアの経済成長を考慮すれば、セキュリティリスクをミニマムにするという点で、将来、全体をつないでエネルギーをマネージしていく構想はあり得るかもしれません。
これはまだまだ夢ですが、ヴィジョンとして大変、面白いですね。
「エナジー・フォー・ピース・イン・アジア」というコンセプトだと孫さんは言っていました。
「日本は何を考えているんだ」と言われないためにも、このように発信することは大変、重要です。

福島の災いを転じて福にしなくてはなりません。
事故から日本は多くを学びました。
ヨーロッパが考えているように、停電のリスクを減らすためには、グリッドは近隣諸国とつないでおいたほうがいいと思います。
また、ロシアや中国、韓国などの安い電力が入ってくれば国内にも競争が生じ、競争にさらされて電力会社も競争力をつけていく。
今は、国内ではそれぞれの電力会社が市場を閉ざし、その市場の中で独占になっているから競争しなくてすみますが、競争力をつけるのは日本の電力会社にとっていいことです。

ヨーロッパでもまさに統一市場になるということで、各国それぞれの電力会社が隣の国に投資して、たとえばイタリアの電力会社がチェコで原子力をやる、スペインはそこら中で風力発電を行いアメリカにも投資している、などそれぞれの得意分野で世界一になることができます。
マーケットをつないで競争するというのは重要なことです。
電力会社には厳しいかもしれませんが、しかし効率化への強いインセンティブを与えるということです。
今回の福島の事故は、そういったグローバル、リージョナルなところから日本のマーケットを考えましょう、という契機になるのではないでしょうか。