Sustainability talk 15 田中伸男(後編)

奪い合いにならないのだから互いにシェアすればいい、だから「エナジー・フォー・ピース」なのです。

田中伸男 財団法人日本エネルギー経済研究所 特別顧問

写真:田中伸男

IEA(国際エネルギー機関)の前事務局長田中伸男さんが語る「エネルギーと日本の未来」後編。
日本の未来像は描けるのでしょうか。

さて、日本はそういった方向に行くためにできることがあるのでしょうか。
たとえば前編で仰った環日本海構想のような、しかもセキュリティも視野に入れた手段がありますか。
それは世界の潮流に乗っていく、あるいは世界の動きに貢献するような方法です。

いくつかありますが、まずは二酸化炭素排出量を減らす技術です。
そのうち大きなものは省エネでしょう。
省エネとは「エネルギーを使わないようにする」ということです。
手っ取り早いセキュリティでもあり、二酸化炭素削減にもつながります。
日本車の燃費の良さは有名ですし、ヒートポンプなど、ありとあらゆる家電の省エネ技術は、日本がリードしています。
これが世界に対する貢献のNo.1と言えるでしょう。

その技術が日本は高い、ということを世界は知っていますか。

知っています。
知っていますが、もっと広く知ってもらえる努力、売り込む努力が必要です。
ヨーロッパなどでは、ヒートポンプがよく使われるようになりました。
ヨーロッパは住宅が古いため、断熱技術や素材などが必要ですが、これは日本も参入できる分野でしょう。
実は、私は、そういった省エネ製品を輸出した場合に「半分くらい二酸化炭素のクレジットをよこせ」と言ってもいいのではないか、と思っているくらいですが。

写真

Stockholm / Sweden

また、風力発電や太陽光発電用のソーラーパネルなども日本が貢献できる分野ですね。
しかし、世界に出る前に日本国内で展開していないと、他の国で「では明日からあなたの国のものを」というわけにいかない。
やはり、まず国内市場で技術や経験を蓄積した上でないと。
システムのデザインなども実験して見せないといけないでしょう。
製品だけ単品ではなくシステムで輸出しないと儲かりませんから。

日本政府もインフラ輸出に熱心になりました。
そして、原子力発電もその一つです。
これは「ポスト・フクシマ」の課題ですね。
まず冷温安定を実現し、この事故で蓄積された技術、運転、安全技術などで、何が間違っていたのかという教訓、それを世界に打ち出せるのではと思います。
実際に、トルコやベトナムなど、福島原発の事故以降も日本の技術を買いたいと言ってくれるありがたい国があります。
日本-トルコ間はもともと良好な関係にありますし、事故を経たあと日本の原発はより安全になるに決まっていると考えて買ってくれるのでしょう。
そういうときに「いや、我々は恐いのでもうやめました」と言うのが適切かどうか。
安全性を輸出するのも、これからの世界への貢献になるでしょう。

さらに、CCS(二酸化炭素の回収・貯蔵)もでしょう。
日本の石炭発電の技術は大変熱効率がよく、世界に誇れるものです。
石炭を多用する新興国が日本の石炭発電技術を活用するだけで、二酸化炭素排出量はかなり減らせるはずです。
中国などの石炭発電を日本のものに変えるだけで大きな効果があるでしょう。